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「無届け以外住めず」厳しい現実

2009年05月28日13時47分

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(コンテンツ提供:高齢者住宅新聞2009年5月25日号)

生活保護受給高齢者の住まい問題を考える

2009年3月に発生した群馬県渋川市無届け有料老人ホーム「静養ホームたまゆら」の火災で浮き彫りになったのが、生活保護を必要とするほど低所得の高齢者の住宅問題だ。
不動産価格の高い都心部では住む場所が見付からず、自宅から遠く離れた群馬県の劣悪な環境の無届け有料老人ホームに入らなければならなかった、という現実は、介護・高齢者住宅業界関係者に大きな課題を突きつけた形となった。
今回は生活保護を受けている高齢者の住宅問題について検証を行う。

都市部で高い保護受給比率

まず、生活保護の実態と動向について整理してみることにしよう。
 2009年2月現在で受給者数は163万3000人強。この1ヶ月で1万5000人増加した。
人口に占める受給者数の割合も1.28%と若干だが上昇している。そして、このあたりの数値は大都市ほど高くなる傾向にある。
 「東京都受給者数の割合は全国平均を上回る1.59%となっています。
市区町村によっては4%というところもあります。東京の場合は、仕事がない、などの理由で地方では生活できず、上京してきたものの、やはり生活が立ち行かなくなった、という人がいることが高い受給者比率になっている原因だと思います」(都福祉保険局福祉部保護課平倉秀夫課長)
 また、地方では物価水準が低い上に、田畑を持っていて少しの食糧なら自給できる人も多いことから、現金収入がなくとも生活可能なことが多い。
加えて、地域の人間関係も密なので、低所得者に対しては地域や親類が支援をするケースも多いため受給者の比率は低い。
生活保護受給者の増加は、大都市型の問題といえるだろう。
 ちなみに全国の各自治体の生活保護関連の予算総額は年間約2兆5000億円にも及ぶ。

子供のリストラで親が生活困窮

「最近は、不況の影響で失業したことなどが原因で支給を受ける『その他の世帯』に分類されるカテゴリーが増える傾向にありますが、それよりもはるかに多い全体の4割以上を占めるのが65歳以上のみで構成される世帯、いわゆる『高齢者世帯』なのです」(厚生労働省社会・援護局保護課村岡孝保護係長)
 高齢者の場合、生活保護問題は非常に深刻だ。
例えば失業による生活保護受給者は、再就職によって再び元の生活水準に戻ることができる。また、母子世帯の場合も、配偶者を得ることで経済状況が好転することが考えられる。
 それに対し高齢者の場合は、就業等で新たな収入を得ることは事実上不可能であり、一度生活保護になった場合、そこから抜け出すことは非常に難しい。
 また、平均寿命が伸びる中で「老後の時間」も長くなり、その間に貯えが尽きるというリスクも高くなっている。
 「また、最近の傾向で多いのが、息子などからの資金援助で生計を立てていた高齢者が、息子がリストラされたことで援助が滞り、生活保護を受けるようになってしまったというケースです。
高齢者の場合は、本人ではなく他人に起因することで生活保護に頼らざるを得なくなることが考えられます」(都社会保険局福祉部)
 こうした理由から、今後、生活保護に依存せざるを得ない高齢者が増えてくることが考えられる。
しかし「生活が苦しいから」と言って誰もが生活保護を受けられるわけではない。
税金を投入する上に、返済の必要もない制度だけに、支給に際してはさまざまなルール・条件が課せられている。
以下、その条件について厚生労働省との一門一答形式で見てみることにしよう。

海外旅行や車保有も可能

生活保護受給者が所有できるものに制限はありますか?

ダイヤモンドなどの宝飾品は、ぜいたく品として基本的に保有できません。家電製品や家具については周辺地域住民の70%が保有していれば生活必需品とみなされ、受給者でも保有できます。テレビやエアコン、携帯電話などは大丈夫でしょう。


車については。

自営業で車が必要、車がないと通勤できない、などの止むを得ない事情があれば認められます。

海外旅行は行けますか。

以前はだめ、というところが多かったのですが、次第に「支給された金額の中でやりくりして行くのだから問題ないのでは」との考えから緩和されてきています。仕事や墓参などの理由なら問題ない、というケースが多いと思います。

不動産について詳しく教えて下さい。自宅は売却しなくてはなりませんか?

基本的には売却してもらい、賃貸物件などに移ってもらいます。ただし、10年程度賃貸物件に住んだ方が結果的に費用が高くつくだろう、と思われる場合には、売却せずに保有し続けることができます。
土地・建物一体売却で2400万円以上になる、というのが売却してもらうひとつの目安になります。

賃貸物件に住む場合の条件は。

家賃上限があります。地域にもよりますが、東京23区内ですと月に5万3700円です。これを超える住宅に居住している場合には支給自治体から退去勧告が出ます。

住居がない人は受給できますか。

できません。またテント生活やダンボールでつくった家に住んでいる場合も「居住はしていない」と判断され、受給できません。
逆に、恒常的な建物内に生活実態があれば受給できます。これは賃貸住宅でなくても大丈夫です。
利用権契約の高齢者施設や、短期労働者向けの簡易宿泊所でも受給できます。「何日以上生活していなければ不可」という制限もありません。

支給が中止されるのはどのようなケースですか。

給与所得や年金などで月々の生活保護支給額を超える収入が得られるようになった場合は、支給は中止になります。
また、資産の相続や贈与、宝くじの当選、見舞い金や祝儀などの一時・臨時収入については6カ月分の支給額に相当する額以上だった場合には、支給を一時中止にします。
その臨時収入がなくなったら再び申請してもらう形になります。また、定時・臨時収入があるのに、それ報告しなかった場合には、支給中止だけでなく、これまでの支給分の返還を求められます。

生活保護受給者が、受給資格を満たす生活をしているか、という点はどのようにチェックするのですか。

支給を行っている自治体が年に2回家庭訪問を行います。

身体健康なら住居確保容易

さて、生活保護の支給ルールについて簡単に確認してみた。
 この中のもあるように、東京23区の場合、家賃上限は5万3700円となっている。
この金額ではさすがに新築の賃貸マンションに住む、というわけにはいかないだろうが、駅から少し遠めの賃貸アパートなら十分に借りられるだろう。
 NPO法人日本地主家主協会(東京都新宿区)は都内の路上生活者の社会復帰支援の取り組みを行った。
その中で、民間の賃貸アパートのオーナーに対し「路上生活者を入居されてくれる物件を提供して欲しい」と呼びかけたところ、約1000件もの物件が集まった。
 「今は不況でどこの賃貸アパートオーナーも経営的に厳しくなっていますから、物件の借り上げ制度導入など、一定のリスクヘッジが図れるのならば路上生活者や生活保護受給者でも入居されたい、と考えているのでしょう」(日本地主家主協会参沢淳明専務理事)
 このように、実際に住宅を供給する側としては、生活保護受給者をはるかに下まわる低所得者でも受け入れをしようという意識が強いのが現実だ。
しかし、そうした状況にもかかわらず、高齢の生活保護受給者の住宅不足問題が叫ばれているのには、どのような事情があるのだろうか。
 「今回、最終的に1000人もの路上生活者の住宅を確保できたのは、建物のオーナーと、路上生活者を直接結びつける、という方法をとったからだと思います。
当初は不動産会社を通じて住宅をあっせんする、という手法を考えていたのですが、ほとんどの不動産会社で門前払いでした。不動産会社は、自分が紹介した入居者がトラブルの原因になることを嫌うあまり『少しでも問題のある入居者は扱わないようにしよう』という意識がどうしても強くなるのです」(参沢専務理事)

食費・生活費で支給額オーバー

このように、不動産業界側の意識を変えさえすれば生活保護受給者でも生活の場を求めることができる、といえそうだ。
 しかし、これが介護・支援を必要とする生活保護受給者となると、「住まい不足」の問題が急速に浮上してくる。
 生活保護受給者が介護保険サービスを利用する場合は、本人負担の1割分は発生しない。
したがって、仮にケア付きの高齢者賃貸住宅に入り、介護・生活支援を受けたとしても、本人が負担すべき費用は家賃・管理費・食費などだ。
この場合は家賃が前述した上限(23区なら月額5万3700円)以下のものならば入居できる。
 しかし、ケア付きの高齢者賃貸住宅の場合には、食費などが固定費用となっており、その部分は個人の節約などで削減することはできない。
したがって月額利用料全体が月の支給総額を上回ってしまい、生活保護者は入居できないということになってしまうのだ。
 一般的に、食費なども含めた支払い義務が生じる住宅・施設に生活保護受給者が入居する場合、月に5000円~1万円程度の現金が残るぐらいの費用のところでないと認められない、と言われている。
生活保護の支給額を月に10万円とすると9万円~9万5000円ということになる。この範囲以内に入居者の支払い総額を収める、というのは介護・高齢者住宅運営事業者からすれば非常に困難な話だ。
人件費の高い都市部にある施設や、入居者数に対し一定数の職員配置が義務づけられている特定施設ではまず無理な水準だろう。
 こうしたことを受け、介護を必要とする生活保護受給高齢者は、無届けにするなどして安い価格を実現している介護施設、中でも地方の介護施設に入らざるを得ない、といった状況となっている。
まさしく「たまゆら」と同じケースが全国各地で発生しているのだ。

受給者の移管行わぬケースも

2009年4月23日、厚生労働省は、無届けの施設に入居している生活保護受給者が全国43都道府県で1万4268人いる、と発表した。うち617人は実際に生活保護費を支給している自治体のある都道府県以外の施設に入居しているという。
東京都墨田区で生活保護を申請し、支給を受けながら、群馬県渋川市の無届け有料老人ホームに入居するようなケースは、決して稀有なことではないのだ。
 ここで、支給する自治体と実際の入居者が住んでいる場所が異なるケースについて詳しく検証してみよう。
 生活保護受給者が他の自治体に転居をする場合には、現在支給を行っている自治体と転居先の自治体との間で移管の手続きを行い、新たな居住先の自治体が支給をするのが原則だ。
 しかし、中には以前の居住地の自治体が、そのまま継続して支給を行うケースもある。
その場合は以下のよな理由が考えられる。
 まず、移住先の自治体が財政などを問題に移管を拒否する、場合がある。
特に移住が「生活保護者が住める住宅・施設がない」という元の自治体側の都合・原因による場合は、移住先の自治体が難色を示すこともある。
 次に、他の自治体への移動が「特養に空きが出るまでの間」など一時的なものの場合がある。
 これ以外にも「生活保護費は移住先の自治体が支給するが、移住先までの転居費用はそれまでの自治体が出す」などというケースもある。
 いずれにせよ、移管の扱いについて地域ごとにルールや慣習が異なるケースも多く、自治体にとっても悩ましい問題のようだ。
また、実際の生活保護支給額は自治体によって異なるので、支給額の低い自治体から高い自治体へと受給希望者が移動する例もあるようだ。

国の全額負担を求める意見も

このため、自治体の間では「全体の4分の3を国が、4分の1を自治体が負担する、という仕組みだから、自治体ごとに差が出来、それが混乱や問題の原因となっている。国が100%負担する、という仕組みにすればいいのではないか」という意見もあるようだ。
 100年に一度と言われる不況の中で、生活保護に頼らなくてはならない人も増え、制度に対する関心も高まっている。
 しかし、現状の制度では介護の必要な高齢者に向け十分とは言い難い面もある。
この点については、国・自治体に加え介護・福祉の業界、地域などがそれぞれ知恵を絞って解決にあたる必要性があるだろう。

参考リンク:渋川ホーム火災 都内の施設不足表面化 都外へ移住する生活保護高齢者
      :東京都 「無届けホーム規制」を緊急提案 「立ち入り調査等を可能に」
          :無届け有料老人ホーム「静養ホームたまゆら」火災で理事長逮捕の教訓

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