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高優賃 国は新規助成も自治体は消極的

2009年07月11日13時47分

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(コンテンツ提供:高齢者住宅新聞2009年7月5日号)

 高齢者居住安定確保法の改正により、高齢者向け賃貸住宅のあり方が大きく変化しようとしている。
特に、「生活支援サービス付き高優賃の整備」と「高円賃・高専賃の両者について新たな登録要件を設ける」という点は、事業者にとってもこれまでの事業戦略の見直しが必要になるなど、その影響は大きいといえる。
また、今回の国の方針が思い通りに進むには、登録・認可の窓口である自治体の動きも鍵を握る。今回は高齢者向け賃貸住宅をめぐる自治体など関係者の動きを追う。

計画提出は任意自治体冷ややか

 2009年6月5日、国土交通省は各都道府県及び政令指定都市の担当者を集め、今回の法改正に関する説明会を行った。
 今回の改正では国土交通省・厚生労働両大臣が「高齢者向け賃貸住宅及び老人ホームの供給目標」いわゆるマスタープランを定めることとなっている。
そのためには高優賃の認定窓口、高円賃・高専賃の登録窓口となっている各自治体の供給目標も数字として上げてもらう必要がある。説明会の席では、国から各自治体に対してそれぞれのマスタープランの作成・提出に関する要請も行われた。
 しかし、これに対して自治体の反応は冷ややかなようだ。
 埼玉県は「自治体のマスタープランの作成・提出はあくまで任意という認識です。県では高優賃は現在事実上シャットアウトしている状態です。今後、県の住宅供給公社で取り組む可能性はゼロではありませんが、明確な供給計画・目標があるわけではありません」(都市整備部住宅課)と語る。
 埼玉県が語るように、自治体のマスタープラン作成は任意だ。実は、国は義務化したかったのだが2008年行われた知事会で、自治体側の反発にあい、任意にせざるを得なかった事情があるという。
「高優賃や有料老人ホームの供給は自治体側の費用負担増に直結する。どこの自治体も財政が厳しいのに、それを国側が義務化するのはおかしい」というのがその理由だ。
 実際のところ「財政難」などを理由に、各自治体は高優賃の認可については消極的だ。
首都圏の主な自治体に聞いたところ、次のような答えが返ってきた。

建てても入らず新規建設を制限

 「県内自治体で高優賃に助成を行っているのは横浜・川崎・横須賀の3市のみです。ただし横須賀は事実上のシャッタアウトです」(神奈川)
 「助成があるのは土浦・筑西・石岡の3市です。『予算がない』『建ててもニーズがない』などの理由で多くの自治体が制限をかけています」(茨城県)
 「これまでに、さいたま市と八潮市で事例があるだけです。八潮市は家賃助成のみで建築費助成はしていません。財政難が理由でどこの市町村も消極的です」(埼玉県)
 「民間の高優賃については、これまで4棟72戸のみです。各市町村の方で『予算がないので建てさせられない』と言う判断がある以上は、県の方では何もいえないのが現実です」(千葉県)

自治体によって異なるルール

 また、自治体によっては国の規定とは別に高優賃に対し独自のルールを設け、供給のハードルを高くしているケースも見受けられる。
 例えば、千葉県では「世帯間のふれあい」を目指し、高優賃を建てる場合には全住所の4分の1以上は一般住戸にするように規定している。また、茨城県石岡市で高優賃の開設準備を進めている土地所有者の藤本京子さんによれば
「計画では35室でしたが、市からは『以前からのルールでは20室分しか助成は行われない』と言われました」という。
このため15室については高齢者以外を入居対象としていく考えだ。
 高優賃の認定基準については都道府県、政令指定都市、中核市は独自に定めることが出来る。
一方、それ以外の市区町村については、県との間で手続きを行えば、独自の認定基準を設けることが可能だ。このため、各自治体ごとに独自のルールが存在するのが現状となっている。
 もちろん、自治体の中には横浜市のように高優賃の供給を積極的に行っているケースもあるが、その場合でも「初めは建設を行うつもりだった事業者が『金融機関からの融資が受けられなくなった』などの理由で認定の申請を取り下げるケースも最近は多い」(横浜市)といい、思うように供給は進まない、というのが現実だ。
 今回の法改正についても「市町村に対して国が新たに行う助成制度について通知し、周知徹底を図ることはできる。しかし、どれだけの市町村がそれにより手をあげるか、という点については全くに未知数、といわざるを得ない」(千葉県)というのが正直なところだ。
 このように、高優賃については、市区町村が消極的なため、都道府県も動きにくいのが現状だ。
 今回、国では生活支援サービスのついた高優賃に40億円の新規直接助成枠を設けた。今後、こうしたタイプの高専賃の普及拡大を図る考えだ。
 しかし、この国の新規助成も自治体がゴーサインを出した物件に対しての追加助成なため、自治体が建設を促進しなければ十分に活用されずに終わってしまう可能性は否定できない。国の考え通りに高優賃の普及を行うには、事業者に対する融資制度の充実などが必要になってくるものと思われる。

粗悪な物件を市場より排除

次に高専賃について見てみることにしよう。
高専賃については、現在の登録を一度すべて白紙に戻し、2009年11月から2010年5月までの間に再登録を行う。
なお、その際に、1室あたりの居室面積について「25平米以上(浴室やトイレなどを共用部に設置する場合には18平米以上)」
という基準が新設される。
また、消費者への開示情報についてもその項目が追加される見通しだ。そして、この新たな規定に満たない物件については高専賃としての登録を行うことが出来なくなる。
 今回、こうした規定を設けたのには2つの理由がある。
 まずは、著しく狭い居室面積など、住まいとして適切でないと思われる物件の市場からの排除だ。
高専賃に詳しいシルバーライフネットワーク(東京都中央区)の向井幸一社長が語る。
 「高専賃については、この3年間、ほとんど規定らしい規定を設けずに登録件数を増やしてきました。しかし、その結果としてハード・ソフト面で問題のある物件も供給されてきました。今回の法改定で少なくない数の物件が高専賃の登録を行えなくなりますが、市場の健全化、という点では良い方向性と言えると思います」
 次に自治体のチェック機能を働かせる、という目的だ。
 現在の仕組みでは、一部の高専賃については、その開設・運営に際してまったく自治体のチェック機能がはたらかない、という状況になっている。しかし、法改正後は、サービスを提供する高専賃は「有料老人ホーム」か「適合高専賃」か「無届け有料老人ホーム」かのいずれかに分類されることになる。
このうち「無届け」については3月の群馬県渋川市での火災以降、自治体や官公庁がチェック機能をはたらかせるようになってきている。結果として、これからはすべての物件において自治体の目が行き届き、品質に問題のあるような物件を市場から排除することが可能となる。

「25平米以上」は妥当な広さか

 しかし、自治体側からは、今回の「25平米以上」という新たな規定については否定的な見方もあるようだ。
 「地価が高く住宅について十分な面積を確保することが難しい都心部では、一室25平米以上というのは非常に厳しい条件である、と考えています」(東京都)
 「一室25平米以上ですと、十分な数の住戸が確保できず、採算がとれない、という理由から建設をあきらめる事業者も出てくるのではないでしょうか。高専賃新規建設の動きに影響が出てくることも考えられます」(神奈川県)
 またシルバーライフネットワーク向井社長は「不動産業務、特に賃貸借契約に詳しい事業者でないと、高専賃を運営することに意味がなくなる可能性もあるのでは」と指摘する。
 「今後、高専賃にも自治体の指導・勧告が入るようになります。すると高専賃と有料老人ホームは同じものである、ということになります。もし事業者が両方手がけることができるならば、どちらがいいでしょうか?
入居者に居住権が発生する高専賃の方が事業者にとって運営が大変なのは明らかです。
賃貸住宅における入居者管理・契約業務に精通している事業者でない限り、わざわざ高専賃をやろうと考える人はいないのではないでしょうか」
 なお、高優賃・高専賃など高齢者向け賃貸住宅を今後、どのように整備していくか、という点については、国が2009年6月中にも省令として発表を行う予定だ。


参考リンク:国土交通省 無届け有料老人ホーム6割が建築基準法違反
      :東京都 「無届けホーム規制」を緊急提案 「立ち入り調査等を届出行えず
      :無届け有料老人ホーム 運営事業者に直撃 個室化難しく届出行えず
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     :国土交通省 無届けホーム全国に506件
 
 

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